アーユルヴェーダの産婦人科&小児科学

アーユルヴェーダの教典の1つスシュルタサンヒター第1巻 第3部 解剖生理編 第3章は、妊娠の解剖生理学について書かれています。現代の産婦人科学に通じる部分もあり、またそれとは全く違う概念のユニークな記述もありとても興味深い内容です。

赤ちゃんの性別を決定する要因

性を決定する因子 男児の生まれることは受胎において精液が卵より優越したことを示し、女子の出生は母性の要素の優越の印である。無性児(半陰陽)は精子と卵とが(質的にも量的にも)均等の場合の所産である。 月経期間中に偶数日に妻を訪れることは男児の受胎をもたらし、奇数日の性交は女児の出生を結果する。 タイミング 月経の終始後の最初の12夜が卵の分泌される時期であるため受胎に適当な期間である。

排卵日に関しては、月経サイクルが規則的な人であれば次の月経予定日の14日±2日間だと言われています。このため、月経サイクルが28日周期の人であれば、月経開始から12-14日目が排卵日ということになります。月経サイクルは個人差があり25-35日までは正常とされていますので、これで考えると25日周期の人の排卵日は月経開始から約9日~11日目、月経サイクルが35日周期の人の排卵日は月経開始から約19日~21日目となります。

スシュルタサンヒターの中では、タイミングは【月経の終始後の最初の12夜】にとるのが良いとしていますので、月経期間が約3-7日であることを考えると、月経開始から4日目~21日目にタイミングをとりましょうということになります。

卵子の寿命は約1日、精子の寿命は約2-3日であることを考慮すると古典で書かれているタイミングは、現代医学とほぼ一致しています。

月経の期間

月経 12歳にはじまり毎月1回流れて50歳まで続きその時身体の衰弱を感じて消失する。

初潮の平均が10-13歳、閉経の平均が50歳ですので、ここも現代医学と一致しているところです。日本人の平均寿命は一昔前の明治時代と比べても30-40年近く長くなり、見た目年齢も若くなっています。しかし、月経の期間は3000年前から変わっていないという事は、妊娠に適した年齢も変わっていないという事になります。

妊娠の兆候

妊娠の兆候 疲労倦怠の感、渇き、大腿の弛緩、けだるさ、子宮からの精液及び月経分泌の抑止、(性交後の)生殖器中の脈動は最初の受胎の兆候である。 乳輪の黒い輪、一列の毛の発生(臍部に至るまで)、眉毛の収縮、突発性の嘔吐、香料を嗅いでも減じない嘔気、溜飲及び一般の倦怠感が妊娠の兆候である。

妊娠の兆候についての記載も実に面白いところです。悪阻(つわり)に関する症状や身体的な変化の特徴はまさに現代に通じるものです。 【(性交後の)生殖器中の脈動】【眉毛の収縮】に関しては現代医学にはない観点なので、前者は難しいですが、後者に関しては妊婦さんを見たら気にしてみたいところです。

妊娠中の禁止事項

妊娠の確認とともに女性は直ちにすべての種類の体作業、性交、断食、身体虚弱の原因、昼寝、夜更かし、悲哀、驚愕、車その他一切の乗り物に乗る旅行、過度の油剤療法、時期を得ない瀉血(すなわち妊娠8カ月以降)及びすべての生理的欲求の抑制をさけなければならない。 子宮内の胎児は母がいかなる痛みを感じてもそれと同一の身体部分に痛みを感じる。その痛みが外傷によるものでもドーシャによるものでも同様である。

ここはとても興味深い部分です。実際に母親と胎児は血液を介して繋がっています。脳神経系も含めすべての細胞は血液から栄養をもらっていますので、母親の心と体レベルで起きていることは全て胎児も共有しているということになります。普段、産婦人科で助産師として妊婦健診に関わっていていると、妊娠前から腰痛や頭痛持ちのお母さんの中には、妊娠中に腰痛や頭痛があってもいつものことだからと気にしない人がいます。しかし、母親の不調は胎児にも同様の問題を起こしていると知ることで自分よりもはるかに小さな体でその痛みを感じていると思うと対応がかわるのではないでしょうか。嗜好品も同様です、アルコール、タバコ、カフェインをとっても大人にも体感できる作用があるわけですから、それを胎児のサイズで同等の刺激を受ける事のダメージを想像してみると、やめることもできるのではないでしょうか。

妊娠月齢別の胎児の状態

 妊娠1か月

胎児は膠(にかわ)状の物質があるのみである。

排卵のタイミングで性交渉が行われた場合、精子と卵子が卵管で出会い受精します。その後受精卵は分割しながら子宮へ移動し着床します。

 妊娠2か月

五大元素はカファ、ピッタ、ヴァータの作用を受けて凝結する。その塊状の形態は男性たるを示し、延長状の形は女性なることを示す。またsalmaliの蕾のような腫瘍状をなすことは性の皆無(半陰陽)の徴である。

月経の遅れから妊娠に母親が気が付く時期です。基礎体温上昇したまま黄体期が続くことから生理前の症状(胸が張る、便秘になる、眠い、だるいなど)が続いているように感じることが多いです。この時期既に胎児の脳・神経系の8割が完成し、触覚刺激に対する反応がみられます。ヴァータ(風)のバランスをとることで流産を予防します。この時期からつわりがはじまります。経膣エコーでみると心拍が確認できます。

 妊娠3か月

5つの塊状の突起が後に5器官つまり両手、両足、および頭となる場所に現れ、身体の小肢、小部が非常に小さな乳頭の形で形成される。

経膣エコーで胎児を見ると尾部が消失し見た目が人らしくなってきます。すべての主要器官が発生します。腎・肺・消化器がそろい、尿産生はじまります。耳が聞こえるようになりますので、胎児に話しかけるようにします。悪阻があるうちは食べられるものの中で消化しやすいものを選びますが、悪阻が落ち着いたら和食を中心にとります。胎児の筋肉組織ができるころなのでたんぱく質をとるようにします。

 妊娠4か月

各肢体、各器官はますます発育し、心臓の形成に基づき意識が賦与される。心臓は意識の座であって、心臓が強勢になるにしたがって意識が賦与されるゆえに、胎児は(母親の要求を通じて)味、香などのものに対する欲望を表現する。妊婦はこの時、2重心臓保持者と称せられる。そしてその欲望が重んぜられ、満たされない場合には、麻痺、せむし、手足の不具、聾児、眼の欠陥、盲児などの出生をもたらす。ゆえに妊婦の欲望は満足せしめなければならず、それが強健で長命な小児の出生を保証するのである。 妊娠した夫人の欲求の満足は、妊娠の苦痛を軽減するものであるから、医師は常にその満足を講じなければならない。その満足が達成されれば、強い、長命な、道徳的な小児の出生が保証される。妊娠中の欲望が満たされないことは、小児にも母親自身にも傷害的である。妊娠中の母親のどの官能的快楽の不満でも小児の特殊感覚器官に悪影響を及ぼすものである。

胎盤の完成し胎児は安定的に栄養を受け取ることができるようになります。妊娠を期に食事の好みが変わるという女性は多くいますが、アーユルヴェーダでは上記のように胎児が母親を通じて要求を伝えていると考えます。このため、食事の好みが変化したとしてもそれは受け止めるようにします。ただし、妊娠中は運動量が減り、消化力も落ちていますので、栄養豊富で消化しやすい食事を心がけるようにします。

また母親と胎児は血液を通じてエネルギーのやりとりをしていますが、現代では感情の変化と関係する脳内物質も血液を介して全身をめぐっていることが知られています。母親の感情は胎児にもダイレクトに伝わりますので、心をリラックスさせ幸せな気持ちで過ごすことを心がけます。

下記のリストは、妊婦が具体的に感じる欲求と胎児の特性についてスシュルタサンヒターに書かれている内容になります。アーユルヴェーダでは、妊婦は道徳的な本を読み、神聖なものに触れ、神聖な気持ちで過ごすことをすすめ、他方で暴力的なもの、不吉なことには触れないように指導していますが、その理由も胎児ににその性質があらわれるからと考えていることがわかります。

 妊娠中の欲求とその影響
  • 高貴者との面接を要求する妊婦  

  富貴で人生の高位に至りうる小児を産む

  • 美しい絹、布、装飾品への欲求  

    美しい趣味の高尚な小児の誕生を示す

  • 遁世隠者との面接を熱望する

    敬虔であり自制心の深い小児の誕生を示す

  • 神像や偶像を見たいとの欲望  

    崇高な会議に参列の栄誉を得るような小児の誕生を予示する

  • 残忍な野獣を見ようとの欲求  

    残虐、冷酷な気性の小児の存在を意味する (略)

  • 牛肉に対する欲求  

    いかなる疲労、身体的苦痛にも耐えうる、強健な小児の出生を予示する

  • 水牛に対する欲求  

    毛深い、勇敢な、紅眼の小児の誕生を示す。

  • イノシシ肉に対する熱望  

    勇敢だが嗜眠性の小児

  • シカ肉に対する欲求  

    精力的、決断性、明朗性の小児 (略)

妊婦の特定の動物の肉に対する欲望は、子宮内の胎児がその動物特有の性癖をその人生において発達せしめることを示すのである。

妊娠中の婦人の欲望は、小児の前世における宿命と行為の結果によって決定されるものである。

 妊娠5か月

** 胎児に精神(マナス)が賦与され、意識下の状態の眠りより覚める。**

この時期になると母親は胎動を感じはじめます。胎児には、頭髪・皮脂・爪が認められます。脳神経回路が既に新生児並になっており、脳皮質が十分に発達してきます。古典の中で精神があらわれるとしている点は大変興味深いところです。胎児は母親の腹壁より光りを感じ、レム睡眠とノンレム睡眠が出現します。

 妊娠6か月

知性(ブッディ)の発生を見る

ブッディとは、ブッダ(悟った人)からくる知性をあらわしています。ブッディ(知性)、アハンカーラ(自我)、サンスカーラ(経験の印象)、マナスが心を構成している要素です。粗大(低位)な心であるマナスが妊娠5か月であらわれた後、妊娠6か月に微細な(高位)心である知性が発生するとしているところが面白いところです。

 妊娠7か月

身体の四肢及び各部分の発達が益々顕著になる。

胎児のトリドーシャが完成します。胎児の生まれながらの体質は受精の時に決定されるのではなく、その後の母親の食生活や精神面の影響を受けながら妊娠7か月の時に完成すると言われています。現代でも妊娠中の母親の食生活が生れてくる子供の将来的な病気のリスクと関係するという数々の報告があります。

 妊娠8か月

胎児の心臓内のオージャスが沈黙に留まらなくなる。(時に胎児の身体から母親のそれは時には逆方向へ通過する)この時に生まれる小児はオージャスダートゥの欠乏のため生後直ちに死ぬ。そしてそれは等しく悪魔の仕業に基づくものとされる。ゆえに妊娠8カ月には悪魔に対し肉の献饌(けんせん)をなさなければならない。

この時期、妊娠中の母親は元気な時とやたらと疲れやすい時を経験します。これは胎児のオージャスが母親にある時、母親は元気に感じ、胎児に戻っている時は疲れやすく感じているということになります。元気な時にも動きすぎず、この時期になったら往復1時間以内で戻れる場所で行動することがすすめられます。海外旅行や登山、息が上がるようなこと、はらはらドキドキするようなことは体力を消耗するので控えます。

 妊娠9か月以降

分娩は受胎後、第9,10,11または12月に起こるがもしそうでなかったら胎児に何か異常が起こったのである。

妊娠37週から42週未満は正期産と呼ばれこの間に陣痛がおきて赤ちゃんは生まれてきます。この期間以外に生まれてきた場合は、胎児もしくは母体側に何らかの異常がある可能性があり、医学的介入が必要になることがあります。

 父性母性要素からそれぞれ受けた因子

スシュルタサンヒターの中では、人間の体のパーツ及び心の性質には、父親由来のものと母親由来のものがあると言います。つまり、心身ともに健康は赤ちゃんを授かりたいと考えるのであれば、母親のみならず、父親も適切な浄化療法を受け、適切に滋養強壮する必要があるということになります。遺伝子レベルでは父母の染色体を半分ずつ受け継いでいるわけですが、例えば優勢遺伝、劣性遺伝があること、男系にのみおこる遺伝疾患があること、新陳代謝に関係するミトコンドリアは100%母親由来であることなど、母父均等に性質を受け継いでいるわけではないことがわかります。

 父親由来

小児の頭と身体の毛、ひげ、骨、爪、歯、静脈(シラー)、神経、動脈(ダマニー)、精液、およびすべての固定されて堅いもの

 母親由来

体内の肉、血液、脂肪、骨髄、心臓、臍、肝臓、脾臓、小腸、肛門、および軟い物

 両親由来 

先天に生理的な条件 勇気、健康、体力、情熱および記憶は両親の生理的条件とともに自然に生まれた小児の所産である。

 ラサ由来

身体の力、容色、身丈、丸味および痩せ 胎児の臍帯(ナーディ―)から、母の同化したものより造られたラサ(リンパ乳び)が入ってきて胎児の成長と発達を促す。

ラサとは食べ物が消化・吸収されて最初に生成される身体要素で、血液の中の血しょう成分にあたるとされています。

 アートマ由来

感覚器、意識、知識、智慧、生命の長さ(寿命)、愉快と苦痛はアートマの結果

アートマとは魂のことです。人は過去世からの因果で今世解消すべき課題をもって生まれてきていると言います。この解消すべき課題をクリアーした時が今世での寿命になります。

神々やバラモンへの信仰に敬虔であって、妊娠中に清潔な身体に清浄な心霊を宿した女子は、よき、有徳な、また寛容な子女を授かることが確かである。然るにその期間中の反対の行為はいうまでもなく反対の悪結果を来すであろう。子宮内の胎児の身体の諸体肢や各部分の発達は自然的でかつ自発的であって、これらの器官を特徴づける性能および条件はその産生に先立つ胎児の行為により決定されていて、その前世において形成されたものである。

繰り返しになりますが、胎児の一生の体質・気質を決定する要因として、妊娠中の母親の食生活はもちろんのこと、どのような気持ちで妊娠期を過ごしたのかという事も大いに影響しています。出産したら自分の時間が無くなるから、妊娠中に仕事、遊び、旅行と考える人が現代には多くみられますが、育児は出産後からはじまるわけではなく、お腹の中に赤ちゃんがいる時点で育児ははじまっています。そしてそれが生れてくるわが子の一生の健幸に影響するという事を是非知っておいて頂きたいです。

 スシュルタサンヒター第1巻 第3部 解剖生理編 第4章 胎児発育の解剖生理学

スシュルタサンヒターの妊婦の解剖生理学の次の章では、胎児発育の解剖生理学が述べられています。

妊婦のアルタヴァ導管(子宮粘膜の血管)の小孔は、妊娠の間胎児によって閉塞されるため(妊娠の間は)月経の発来はない。下向きの流通をかく妨げられた経血は上方に向けて昇る。その一部は集積して胎盤(apara)を形成し、残余はなお高く上昇して胸乳に達する。妊婦の乳房が充血し肥大する理由はここにある。

妊娠中は排卵は抑制され月経はとまります。スシュルタサンヒターの中ではこの経血が胎盤を形成し、乳房発育を助けるとしているところが面白いところです。

以下は胎児の器官がアーユルヴェーダ的にどのように発生するのかを説明しています。

胎児の脾臓と肝臓は血液から形成される。肺臓は血液の泡沫からつくられる。そしてundukaすなわち便の容所は血液の残渣(マラ)から形成される。 胎児の小腸(anntra)膀胱(バスティ)および肛門(グダ)は血液とカファの精がピッタによって焼かれて形成されヴァーユもそこに入る。空気にあおられた火炎が汚れた金鉱を精錬して純金属とするがごとく、ピッタの熱によって作用された血液とカファは腹部内の小腸その他に変形するのである。舌は肉、血液およびカファの精髄から形成される。ヴァーユと熱とが適当の比例で融合し、肉の中へその内部導管をとおって入れば筋肉(Pesi)に変形する。ヴァーユは脂肪(メーダ)からその油性要素を取り除いて、それをシラーとスナーユ(線維組織)に変形する。十分焼けないものは(mridu)はシラーに変わり、過熱のもの(kshara)はスナーユになる。人体の内部腔所(Asayas)は胎児時期にヴァーユが常時滞在していた場所や領域を示すものである。 腎臓(vrikkas)は血液と脂肪の精髄から形成され、睾丸は血液、肉、カファおよび脂肪の精髄からつくられる。心臓は血液とカファの精髄から形成され、生命要素を運ぶ導管は心臓に付着する。 脾臓と肺臓は心臓の下部左側に位置し、肝臓とkloma(膵臓?)は心臓の下部右側に位置する。心臓はすべての生物に置いて意識(chetana)の特殊の座である。

胎児の子宮内における成長は(母親によって同化された)食物からできたラサがヴァーユによって胎児の体内通路に閉じ込められて遂行するのである。

胎児の臍部には火またはジョーティ(光)があって、胎児の身体のヴァーユにあおられてその成長に寄与することを了解すべきである。同じヴァーユが熱と共同して(胎児の体内にて)上方および下方および側方の通路を拡延し、胎児の成長を導くのである。眼および毛根は全く関与しない。これは自然の法則であり、ダンヴァンタリの所説である。他方毛髪および指の爪は人体が崩壊に入ってもなお成長を続けるが、これもまた自然の法則である。

いかがですか。現代医学と一致する部分、解明されていない部分も多く説明されているところが興味深いところです。

あらゆる生命において生殖活動は大変神秘的な部分です。なぜなら、どれだけ現代科学が進歩しても、生きた細胞を作ることはいまだにできないからです。またどこから生まれてくるのか、心肺が停止した後どこへ行くのかということも、生と死が人類の最初から繰り返されているにもかかわらず、解明されていない部分です。

わかっているのは、父がいて母がいてその結びつきの中で奇跡的な確率で生命が誕生するということ。そして胎児にとって両親は全てであり、胎児は子宮の中でしか生きることができません。新しい命に選ばれて父、母になる人達には、是非妊娠中の過ごし方の大切さを知って欲しいと思います。