スタートは古い!!

日本におけるアーユルヴェーダの歴史は6世紀仏教の伝来とともに仏教医学として伝えられたのがはじめだとされている。それ以来、日本人はインドの習慣をとりいれてきており、アーユルヴェーダやヨーガの習慣もある。日本語の旦那や世話などという言葉はそのころに伝えられたサンスクリット語に由来すると考えられている。小児期に多い喘息を予防するための乾布摩擦や座禅もルーツはアーユルヴェーダやヨーガと考えられる。江戸時代になると漢方医学が反映し、その普及が頂点に達する一方、アーユルヴェーダは影を潜めていた。

現代の流れはここから

日本においてアーユルヴェーダが認識されはじめるのは、1970年大阪大学医学部教授の故丸山博氏によりアーユルヴェーダ研究会(現在の日本アーユルヴェーダ学会)が発足されてからである。 1980年代、富山薬科大学においてアーユルヴェーダの概念を用いた痔の治療(クシャーラ・スートラ)による臨床研究が開始された。 1990年代にはいり、いくつかのアーユルヴェーダ研究が、厚生省の補助金で行われ、アーユルヴェーダの代表的な治療である浄化療法(パンチャカルマ)の効果を検証しようと試みられた。 1999年になり、富山県に日本で初めての公的な世界伝統医学研究機関である富山県国際伝統医学センターが設立された。近年では数多くのアーユルヴェーダ実践施設が開設されてきている。しかし、その多くは、アーユルヴェーダの健康増進法のひとつであるオイルマッサージをエステティックサロンでのリラクゼーションメニューとして導入したものである。医療機関でアーユルヴェーダを取り入れる試みもみられているが、入院あるいは滞在して長期間のアーユルヴェーダ施設を行う施設は少ない。

日本におけるアーユルヴェーダの可能性

上馬場先生のあげる可能性に対して萩島の意見を追加しています。

アーユルヴェーダは、疾病の予防と健康増進を目指す。

アーユルヴェーダは日々の養生法を大切にしており、これにより自分の健康に責任を持つ人が増えれば病気を減らし医療費を削減することができる。また風邪のひきはじめなどちょっとした病気はセルフケアで対応できる人が増えれば、病院は治療が本当に必要な患者に集中することができる。

アーユルヴェーダは高齢者のQOLを増進させてくれる。

アーユルヴェーダの食事法やオイルケアは筋肉、神経を滋養強壮し、体力を増進させ老化をおくらせる。アーユルヴェーダが若返りの医学とよばれる所以である。

アーユルヴェーダは小児の健康を増進させる。

アーユルヴェーダには小児科学という部門があり、心身ともに健康で丈夫な子供を産み育てるための養生法について詳しく説明している。

アーユルヴェーダは、親子、祖父母-子、子供同士の触れ合いを促すことで、人間関係を円滑にして社会をよくする力をもつ。

アーユルヴェーダの小児科学、強壮学では夫婦関係、親子関係についてどうかかわっていくべきかについて言及している。またアーユルヴェーダはそもそも体質毎、心の傾向について説明しており、体質の違いや心の傾向を理解することが、他人を理解し、違いを許容することにつながり、スムーズな人間関係につながるケースが多い。

アーユルヴェーダは安価で有効性の高い多くのテクニックを有している

代表的なものとしては白湯を飲むことをすすめている。白湯は胃腸を温め、細胞を潤し、老廃物の排出を促すすぐれた飲み物である一方コストはほとんどかからない。

アーユルヴェーダは過去世から来世までをカバーしている概念を有しており、ターミナルケアにおいて有用となるホリスティックなシステムである。

現代は身近に死というものが存在せず、また宗教をもたないものも多いため、死生観を持ちづらい。このことが死に対して知らない不安や恐怖を生み出す一因となっていると考えられる。”アーユルヴェーダでは生命とは何か”について詳しく説明しており、肉体のみならず、精神、スピリットのレベルまで扱っているホリスティックな医学である。

日本におけるアーユルヴェーダの問題点

アーユルヴェーダの薬草や薬用オイルは、日本で認可されたものではないため、入手することが困難である。

個人的に輸入するとしても品質の管理やクライアントに対して適切なオイルを選択し使用する知識やノウハウを学ぶ機会が少ない。

いくつかのアーユルヴェーダ治療は、高価であり、金持ちだけのものになる可能性がある。

機械を使わず大量のオイルやセラピストを必要とする施術や、1週間以上滞在して行う浄化療法を日本に導入した場合、人件費や材料代など高価になる可能性がある。

アーユルヴェーダを修飾することは、その効果を失わせることになるかもしれないが、逆に日本人に対する可能性を高めることになるかもしれない。

アーユルヴェーダはインドではじまり発展してきたため、日本では手に入りずらい植物も多く存在する。その概念をとりいれながら、現代日本に適応していく際、インドのまま取り入れるのは難しいことが多い。その際、どこまで解釈を広げて取り入れていくのかが問われるが、その創意工夫の中でアーユルヴェーダの発展につながることも考えられる。

アーユルヴェーダの古典の教えには日本の生活習慣とあわないものもある。

アーユルヴェーダでは牛乳をすすめるが、日本人が乳製品をとるようになったのは近年になってからであり、乳製品が消化できずお腹を下す人も少なくない。
アーユルヴェーダでは花粉症にはヨーグルトはとってはいけないとしているが、現代の健康常識ではすすめている。
アーユルヴェーダでははちみつを乳幼児にすすめるが、日本では禁止している。
など

アーユルヴェーダの治療の有効性と安全性、効果の仕組みを明らかにすることで、アーユルヴェーダの本質を見失わないようにしながら、日本のアーユルヴェーダを再構築する必要があるだろう。

アーユルヴェーダの本場インドにおいても、アーユルヴェーダの治療法に対するエビデンスをとる科学的検証が積極的に行われている。

2015年日本のチームがシローダーラーの不眠に対する有効性を発表して話題になった。

ごま油のアーユルヴェーダで睡眠の質とQOLが改善
世界初のランダム化単盲検クロスオーバー試験で
https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0107038160/
論文abstract
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26669255

日本におけるアーユルヴェーダの可能性と問題点

以上のように、アーユルヴェーダに代表される伝統医学の安全性、有効性をどのように解明していくのか、他国で実践されてきたものを日本人にどう適用していくのかということに関しては、今後科学的な研究によるエビデンスに従い、アーユルヴェーダの本質を失わないよう実践されることを通じて検証される必要がある。

また病気の治療と予防医学(健康維持増進)の両面を扱うアーユルヴェーダを日本で実践する際、日本の医療行為に抵触する可能性があるものも多く、近年アーユルヴェーダの代表的なハーブが薬事法の対象となり自由に入手するのが困難になる例があった。安心安全にアーユルヴェーダを提供できるよう他の周辺医療とともに統合医療の在り方に対する制度を整えていく必要がある。

参考・引用文献
上馬場和夫:日本におけるアーユルヴェーダの現状と将来,アーユルヴェーダ研究,31:42-49,2001
幡井勉:伝統医学アーユルヴェーダ理論と治療の実際,公衆衛生72(2):106-109,2008